中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】

キャンセル・カルチャーの真実「破壊することは果たして正義か?」

ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)フランスの哲学者、思想家。

 

■テレビ業界が生き残るための生贄と化す〝極めて皮肉な事態〟

 

 真実解明そっちのけで、長年自民党・総務省と結託して日本を影で支配してきた大組織を潰して、すかっとしたいという破壊衝動で多くの人が突き動かされ、異様な盛り上がりを見せるこのキャンセル運動は、ジョルジュ・バタイユの言う「蕩尽」を思わせる。

 バタイユによると、将来の生き残りのために、人々の行動を秩序付けて、「労働」する主体へと構成し、労働の成果を「貨幣」や「資本」の形で蓄積するようになった文明社会では、人々の野生の欲望は抑圧され、無害なものに変えられる。人間が動物である以上、労働・蓄積に伴う緊張をどこまでも高めていくのは不可能だ。どこかで、ためこんだエネルギーを放出(蕩尽)しないといけない。原初的な社会では、宗教儀礼がその役割を果たしていたが、宗教の力が弱まった現代社会では、はっきりしたはけ口はない。芸術やエロティシズムが部分的にその役割を果たすが、それだけでは足らなくなる。

 「楽しくなければテレビじゃない」の標語の下に、日本社会に溜まっていたものを「蕩尽」させる回路を作ってきたフジテレビが、番組制作(労働)の過程でエロティシズムの暴走(と思われる)問題を引き起こし、自らがテレビ業界が生き残るための生贄と化しているのは、極めて皮肉な事態に思える。

 

文:仲正昌樹

KEYWORDS:

オススメ記事

仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?
ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?
  • 仲正昌樹
  • 2024.09.21
人はなぜ「自由」から逃走するのか: エーリヒ・フロムとともに考える
人はなぜ「自由」から逃走するのか: エーリヒ・フロムとともに考える
  • 仲正 昌樹
  • 2020.08.25
悪の法哲学: 神的暴力と法
悪の法哲学: 神的暴力と法
  • 仲正 昌樹
  • 2025.03.27